小さいブランドならではの販売戦略で成長 鎌倉の人気アパレルブランド「KEY MEMORY」

藤井竜太朗【MIKATA編集部】

株式会社KEYMEMORY 代表取締役 CEO 鈴木一平氏

「鎌倉の特別な時間」をコンセプトに、日々の生活をリラックスして過ごせるアイテムをデザイン・販売している鎌倉発の人気ファッションブランド「KEY MEMORY(キーメモリー)」。2年連続でカラーミーショップ大賞の優秀賞を受賞した株式会社KEYMEMORY 代表取締役の鈴木一平氏に、ショップ立ち上げ当時の話から、ECでの販売戦略、ブランドに対する思いまで語ってもらった。

鎌倉を選んだ背景は

──地域に根ざしたブランドを立ち上げるにあたって、なぜ鎌倉を選んだのでしょうか。

僕は神戸で生まれて、父親の仕事の関係で、東京に引っ越してきたんですが、子どもの頃の影響で、海と山に挟まれた土地が好きなんですね。それで、鎌倉という土地が子どもの頃から好きになりました。横浜・戸塚にある大学に通っていたんですけど、その時期に両親が鎌倉に引っ越しまして、さらに鎌倉に行く機会が増えて、それまで以上にこの土地に惹かれてしまったという感じです。

──アパレルを商材にビジネスをするというのは、最初から決められていたのですか。

アパレルブランドを立ち上げるというのは学生の頃からの夢でした。都内だと、かなりレッドオーシャンで難しいと思ったので、熱海や箱根とか、観光地系でブランドを構築するということも考えましたが、場所のブランディングということを含めて、鎌倉がいいと思ったんですね。あと、鎌倉のアパレルブランドというと、メーカーズシャツ鎌倉さんという大先輩が有名ですが、鎌倉が本拠地のカジュアルなアパレルブランドって意外と少ないというのも決め手の一つでした。

──実店舗は鎌倉駅周辺ではなく、高徳院(鎌倉大仏)のある長谷に開かれましたが、何か理由はあるのでしょうか。

当社の(洋服の)デザインは30代女性をターゲットにしていて、鎌倉駅周辺だと小町通りは10代20代の若い方が集まるエリアなので、当社のターゲットから外れていました。その点、長谷は鎌倉好きの方が集まる中でもお寺巡りをされるディープな方が多くいらして、なおかつちょっと上の年齢層の方が集まるエリアだったので、長谷に決めました。あと、江ノ電の停車駅では長谷駅は鎌倉駅の次に観光客が多い駅ということも決め手になりました。

鎌倉・長谷にある実店舗の店内

「カラーミーカレッジ」でECに本腰

──2017年春にECショップを立ち上げて、18年3月に法人化、同年4月に実店舗を開かれましたが、最初は古着を集めてフリーマーケットに出店するところから始めたんですね。

そうなんです。僕は百貨店出身なんですけど、新品のブランドを立ち上げたと打ち出して、大々的に売り出しても絶対にお客様は来てくれないというのがわかっていました。なので、百貨店のときの知り合いとか、大学時代にアルバイトをしていたアパレルブランドの知り合いから古着を買い取ってフリーマーケットを開催して、そこにKEY MEMORYとして、新品の商品を少し置いてお客さんの反応を見ながらフリマで集客して、ついでに何か新品を買ってもらう形で始めました。

そこから、徐々にインスタを見て売り場に来てくださったり、毎回フリマを開催するたびに来てくれるお客様が増えてきました。そんな中で、イベントだけでなく、常設で物を買えるところが欲しいという声をいただいたタイミングで脱サラして、ECを立ち上げました。

──自社ECの立ち上げはやはり大変でしたか。

当社はモールは一切出していないんですけど、自社ECの初速売上が遅いのが思っていた以上に大変でしたね。元々有名なブランドでもなければ、新規で、なおかつアパレルなんて、「なぜ今始める?」っていうくらい競争が激しい業態ですから、わかってはいましたが、苦労しました。最初のほうはマス向けの施策というよりは、お客様一人ひとりに向き合った施策をとってはいたんですけど、かなり伸び悩んでいたので売上が安定してくるまで結構時間がかかりましたね。

──ECの売上で手応えを感じるようになったのはいつ頃ですか。

2019年の2月から6月にかけてあった少人数制スクール「カラーミーカレッジ」(※)に入った頃ですかね。1回目(全5回)を受講したあとのタイミングで本当に結果がついてきて、その結果を見て本気になって勉強しました。高校・大学で一応勉強しましたけど、今までの人生で一番真剣に勉学に取り組んだ期間だったかもしれません(笑)。このカレッジ以前は、デザインなどに力を入れていましたが、カレッジで「どうECで売っていくか」を集中的に学べたのは、自分にとっては大切な経験でしたね。

──カラーミーカレッジでの最も大きな学びになったことはどんなことですか。

一番はブランディングですね。カレッジに入ったタイミングで、もう僕たちはブランドを立ち上げて2年たっていたので、自分たちの「当たり前」について外部から見てもらったり、「鎌倉ブランドって、本当はもっと強いブランド力があるはずだよね」みたいな意見をいただいたり、その時に受講していたショップの方々や講師の方からも第三者として意見をいただけたのがすごいメリットでしたね。社内のチームだけで話をしていると、気づかない点が多くあるので、第三者の声をいただくっていうのはとても重要ということに気づきました。あと、鎌倉が本当に好きなお客様が当社の洋服を買ってくださっていたので、アパレルには全然関係のない鎌倉コンテンツみたいなものを増やすことが集客につながるというEC全体のブランディングが重要だと痛感しましたね。

(※)GMOペパボが提供するネットショップ作成サービス「カラーミーショップ byGMOペパボ」の契約ユーザー向けに限定で実施された、少人数制のECサイト運営のスクール。現在は募集を行っていません。

KEY MEMORYのECサイト

小さいブランドならではの販売戦略

──そういった中でカラーミーショップ大賞の優秀賞を2年連続で受賞しました。

カラーミーカレッジで、カラーミーショップ大賞というのを知って、一つの目標になっていたのでうれしいですよね。去年は授賞式に呼ばれることが目標でしたが、今年は最優秀賞を目指して1年間頑張ってきたので、大賞をとれなかったのは残念でしたが、来年こそ最優秀をとれるように頑張っていきたいですね。

今年はインスタライブやポップアップなどのリアルイベントを開催するなどの工夫が評価されての優秀賞と聞きましたが、いま当社では、自社店舗をいくつも全国に広げる展開というよりは、全国各地を回っているポップアップイベントでひと月分ぐらいの売上を1週間で一気に上げて、それを最終的にECに流す戦略をとっています。

当社のように小さいブランドは、マス向けプロモーションだけでは価格の面を含めて、大手には勝てないので、小さいブランドだからこそできることとして、お客様一人ひとりに向き合うことが大切だと考えています。お得意様と関係を築いて個々にメールを多く打ったり、販売スタッフとして実店舗やポップアップイベント、インスタライブに出たりして露出を増やして、お客様に顔と名前を覚えてもらいながら、お客様との距離をなるべく近づけるようにしています。もちろん、これから会社として大きくなるつもりではいるんですけど、スタッフ、デザイナー、生産者とお客様の距離を縮めることは、小さい会社だからこそできることだと思うので、できる範囲でこの方針は続けていきたいですね。

──会社を大きくしたいということですが、やはりモールでの販売はあまり考えてないのでしょうか。

モールってすごい便利ですし、お客様にとってポイントがたまるというメリットはあります。ただ、当社のブランド名「KEY MEMORY」は「洋服を通して(お客様の)思い出の鍵になりたい」というのがブランドコンセプトになっていまして、洋服を見て思い出してほしいという気持ちを伝えたいブランドなんです。

僕もそうですけど、モールで買った商品ってどこで買ったかを覚えてないことが多いじゃないですか。おそらく、モールで買う方は、(生産者の)プロダクトへの思いやどこのブランドのどういう人が売っているっていうことに関して、興味がない方が多いと思うんです。

なので、当社としては、わざわざ自社ECまで来てくださって、買ってくださるお客様は、ウチのブランドストーリーを含めて買ってくださる方が多いと考えているので、今はコンセプト的にも自社ECを大事にしていますね。そんなこと言っておいて、10年後はモールに手を出しているかもしれないですけど(笑)。

「小さいブランドだからこそできることとして、お客様一人ひとりに向き合うことが大切」と語る鈴木氏

鎌倉といえばKEY MEMORYという存在になりたい

──今後はどういったショップ展開をされる予定でしょうか。

現状、当社のメインターゲットが30代から50代ぐらいの女性になっていて、男女割合でいうと、7:3、もしくは8:2くらいで女性が多いんですね。なので、今後は男性顧客に向けたアイデアを増やしていこうと思っています。親子3世代で着られるユニセックスものが一応あるんですけど、今年から男性向けということでゴルフラインを出し始めていて、ゴルフブランドとして認知していただいてから、KEY MEMORYを知っていただくケースも徐々に増えてきてはいますね。

──ブランドとして目指す理想の姿というのはありますか。

一応、今目指しているのは、「鎌倉といえばKEY MEMORY」という存在になりたいということですね。鎌倉ブランドとして有名なのは鳩サブレー、クルミッ子がありますけど、いつかそういう企業の仲間に入りたいです。

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