今回は”3Dプリンターで家を作る”という新たな技術で、日本の住宅ローン問題の解決に取り組むセレンディクス株式会社様にインタビューをさせていただきました。お話をしてくださったのは、会社内唯一の大学生インターンである佐藤蒼士様です。セレンディクス様が掲げている想いと、そのような新たな建築の現場で働く佐藤様のことをお伝えさせていただきます。
こんにちは。本日はどうぞよろしくお願いいたします。まず簡単に佐藤様のご経歴について教えていただいてもよろしいでしょうか。
こんにちは。こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。
私は現在東北学院大学経営学部の4年生で、セレンディクスに学生インターンとして参加させていただいています。セレンディクスは簡単にいうと3Dプリンターで家を作っている会社で、私は業務アシスタントという立場で働いています。
後で詳しく話させていただくのですが、2年生の時にはとある学生NPOの代表として活動していました。
改めまして、今回はよろしくお願いいたします。
右:COO飯田様 左:佐藤様
ありがとうございます。それではまず、セレンディクス様がどのようなことをされている会社であるのか、お聞きしていきたいと思います。
早速ですが、先ほど、3Dプリンターを使って家を作るということをお話してくださいましたが、詳細をお聞かせください。
簡単にいうと、住宅データをデジタルで作成し、工場で3Dプリンターで出力、それらを建築場所へ運び組み立てることで、1つの家を完成させています。
この方法を取ることの利点は大きく二つありまして、1つ目は大幅な時間短縮、2つ目は人件費削減につながることです。
工場であらかじめ家のパーツを作成しておけば、現場で行うことはそれらを組み上げるだけになります。しかも、モデルの1つであるserendix10(スフィアモデル)であればパーツ数も4つだけなので、24時間で家が完成します。
また、パーツの出力は全て3Dプリンターで行えるので、人件費も抑えることができます。さらに実際に組み立てる段階においても、一般的な住宅ではおよそ6カ月の工期がかかってしまうので、24時間で完成するというのは大幅な人件費削減につながります。
さらに家の形や材料にもコスト削減の工夫があります。
セレンディクスは世界で唯一、屋根まで一体型のコンクリート住宅を作ることが可能です。現在、世界中では様々なスタートアップ企業が3Dプリンター住宅の開発競争を行っています。しかし皆さん既存住宅の延長線上で、3Dプリンターを使い家の出力を行っています。要するに、家の壁のみを垂直に3Dプリンティングしてその他の工程は従来の工法で家づくりをしている状況です。
一方、我々セレンディクスは屋根まで一体成型、水よりも安いコンクリート単一素材で耐震・断熱などの複合的な機能を持たせています。
これらの強みによって、”約300万円で家を建てる”ということを実現しています。
出力中の様子
Clouds AO / serendix
様々な工夫によって低価格の実現を可能にしているんですね…。
どのような想いでこれほど低価格にこだわりを持っていらっしゃるんでしょうか。
スタートアップの使命は社会課題の解決だと考えています。
私たちは、日本の住宅ローン問題を解決したい、その想いで活動しています。
現在の日本では、自分の家を持ちたくても住宅ローンを考えるとどうしても購入に踏み切れない方々が多くいらっしゃいます。そのような人々に自分の家を買うという選択肢を提示できればと思っています。
弊社代表の小間は以前、世界初のEVスポーツカーを作っていました。しかし日本の住宅ローンの現状を知り、3Dプリンターを用いた世界最先端の住宅であればこの社会課題の解決につながると考え、活動を始めました。
セレンディクス様の住宅ローン問題を解決したいという想い、すごく伝わってきました。
先ほど全てをコンクリートで作るとおっしゃっていました。少し疑問に思ったのですが、安全性などは実際のところ大丈夫なのでしょうか。
気になってくるのは地震や火事の際の安全性かと思います。
まず耐震性に関しては、現在224の協力会社とともに日本の知見を集めたシミュレーションを行っています。組み立ての際に鉄筋を組み込むなどの工夫によって、シミュレーション上は震度8の地震にも耐えられる設計となっています。
耐火性に関しましては、コンクリートは火に強い素材ですので、1000度の炎に1時間さらされても発火しません。
むしろ従来の住居よりも安全性は高くなっています。
また、安全性とは少し離れてしまいますが、当社のオープンコンソーシアムには気密測定器の開発を行うヤマイチ株式会社様もいらっしゃるので、今後はこうした住宅の気密性に関する検証も行えるかもしれません。
気密性能が高ければ、換気や断熱に便利なだけではなく、壁に使われている木材や断熱材を腐食から守ってくれたり、冷暖房を効率的に動作させることができます。
家を建てる時だけでなく、住んでいる時にも電気代という面で節約することが期待できます。
組み立て中の様子
Clouds AO / serendix
なるほど、安全性だけでなく、電気代の節約にも優れてるんですね。様々なところでコストカットを実現していることに驚きました。
今年の7月にスフィアの第一棟が完成したそうですが、お問い合わせ状況などをお伺いしてもよろしいでしょうか。
実は現在、8000件以上のお問い合わせをいただいております。
特に高齢者の方々からよくお問い合わせをいただきます。リフォームを考えたいけれど金銭的な面でためらってしまう方々に、私たちの技術を役立てることができるといいなと思っております。
8000件も!すごいですね…。
そこまでお問い合わせが多いと何か不足してくるものはないんでしょうか?
今後はお問い合わせに対応できるようプリンターをはじめとするリソースの拡充をはかる予定です。
私たちは現在、国内の様々な企業と協力することでこの課題の解決を図っています。
3Dプリンターという新しい技術を用いて建築業界の方々と連携し、共に社会課題の解決に取り組んでいければと考えております。
ありがとうございます。労働人口が減っていくことが予想されるこれからの時代において、人的資源を節約でき、さらにコストも抑えることができるセレンディクス様の技術、今後の動向がとても楽しみです。
serendix10(スフィアモデル)
Clouds AO / serendix
ここまでセレンディクス様についてお伺いしてきましたが、続いてそのような会社で大学生唯一のインターンとして働かれている、佐藤様ご自身のお話についてお聞かせいただければと思います。
ではまず、どのようにしてセレンディクス様と出会ったのかお聞かせください。
私が丁度大学三年生の時に、関西に24時間、300万円で家を作る会社があると聞いて、調べてみたのがきっかけです。
私自身、宮城県で東日本大震災を経験しており、その後の復興が思うように進まなかったことが強く印象に残っています。そんな時に24時間で建てられる家があったらどれほど復興の手助けになったのだろうと思い、ぜひともここで働いてみたいと思いました。
当時は人材募集は行っていなかったんですけど、連絡をとって自分の気持ちを伝えたところ、幸運なことに受け入れてくださいました。当時の私を拾い上げてくださったことにとても感謝しています。
震災をご経験された方が、復興の手助けとなる家を作ることができる会社で働いているという、正しく運命的な出会いをされたわけですが、そんな佐藤様から見たセレンディクス様の魅力はどのようなところですか??
何よりも”周りの方々がすばらしい人たちばかり”、というところです。
「今までの学生生活とは違って、ここでは自分にできることを自分でみつけてもらう。敷かれたレールじゃなくて自分自身で道を作っていく中で、立派な社会人になって欲しい。」これは自分が今年の1月に初めて小牧にインターンに行った際に、CTOの緒方が僕に話してくれた言葉です。またCOO飯田の「日本の住宅ローン問題が解決するかどうかは、私たちの取り組みにかかっている。」という言葉にも感銘を受けました。
大きな志を持ち、なおかつ私の成長を温かく見守ってくれる、そんな多くのスタッフに囲まれながら仕事をさせていただけているということが、働いている今改めて感じる魅力です。
周りの人が尊敬できる、私自身もすごく共感しました。貴重なお話をありがとうございます。
インターン以前にボランティアサークルを運営されていたということですが、それについてもお話をお聞かせいただけますか?
私は「東北学院大学つばさLEOクラブ」という学生NPOで代表を勤めていました。私たちの代では主に行政のセーフティーネットではカバーしきれないところ、親のいない子供たちや詐欺被害にあいやすい高齢者の方々に対して活動を行いました。
様々な活動を行いましたが、その中でも特に心に残っているのが、児童養護施設の「ラ・サールホーム」というところに訪問させていただいたことです。
一日そこで子供たちと時間を共にしましたが、初めは表情が硬かった子たちも私たちが帰る時間になると、服を引っ張ってすごく寂しそうな顔をしていました。一緒にいられた時間は長くはなかったんですけど、そんな中でも自分たちと過ごした時間を本当に楽しんでくれていたんだと感じてとても嬉しかったです。
また、経営学部で学んだことがこの活動にすごく活きました。
私は大学の研究室で、日本の歴代の経営者の方々を研究して自分のキャリア選択に活用していくということをやっていました。その中で稲盛和夫さんが京セラで実施していた社内カンパニー制をLEOクラブでの代表としての仕事に活用することができました。
初めは自分で全部の仕事をやろうとしてたんですけど、どうしても1人では処理しきれなくなってしまいました。そこで仲間たちに正直に相談して1人1つずつ仕事を頼んでみたら、みんな快く助けてくれました。
よく言われていることではあるんですけど、周りと一緒に取り組むことの大切さを活動を通して改めて感じました。
このインタビューについても多くの方にご協力していただいて成立するものです。我々もメディアという立場だからこそ、周りの人と一緒に取り組む大切さを噛み締めていきたいと思います。
先ほど研究が実際に自分の役に立ったとお話しくださいましたが、他にも大学在学中などに行ったことで今に生きていると感じることはありますか?
当時何気なくやっていた英語の勉強が今活きていると強く感じました。インターンの中で海外の方とお話する機会が多くあるんですけど、そんな時にしっかりとしたコミュニケーションがとれると、あの時英語勉強しておいて良かったなと感じます。
1つ伝えたいのは、今明確な目標をもって何か行動するのではなくても、将来意外なところで自分の力になってくれることは往々にしてあるということです。
もちろん目標があって行動できるのは素晴らしいことです。しかし私自身、英語の勉強も仕事で使うためにしてたわけではないので、とりあえず何か行動を起こしてみることは大切だと思います。
ありがとうございます。
最後にこれからキャリアを選択していく高校、大学生に向けて何かメッセージをお願いします。
自分の進む道を見つけることはとても難しいことだと思います。無限に広がる可能性の中から1本の道を選択する、何か道しるべがなければ出来ないことです。
そんな時は自分がこれまで何を経験してきたかを考えてみてください。私は東日本大震災、そしてその復興を見てきた経験があって、このセレンディクスという会社に出会うことが出来ました。
自分が進む道に迷ったとき、ヒントは自分の歩んできた道にあるかもしれません。あせって前に進もうとするのではなく、ぜひ一度立ち止まって後ろを振り返ってみるということを大切にしてください。
公開日:2023-12-16