甘味料「チクロ」 日本ではなぜ使用禁止なのか

チクロが検出され、自主回収された調味料(横浜市健康福祉局食品衛生課提供)
チクロが検出され、自主回収された調味料(横浜市健康福祉局食品衛生課提供)

 1月初め、ある輸入業者が保健所から調味料の自主回収を命じられた。商品からサイクラミン酸(通称チクロ)が検出されたからだ。チクロは、発がん性が疑われ日本では使用が禁止されている人工甘味料だが、海外では使われている国もあり、国際的な対応が分かれている。

昭和の甘み

 チクロは、横浜市内の輸入業者が昨年7月に輸入したタイ産の調味料から見つかった。東京都世田谷区が実施した市販品の抜き取り検査で分かった。1キロ当たり20ミリグラムのチクロが入っていた。健康に影響を及ぼす量ではないが、日本の食品衛生法は使用そのものを認めていない。同法違反であるとして、横浜市保健所は輸入業者に回収命令を出した。

 チクロは、砂糖の40倍の甘味があるとされる人工甘味料で、日本では昭和31年に食品添加物に指定された。昭和時代の食べ物に詳しい「昭和レトロ商品博物館」(東京都青梅市)名誉館長の串間努(つとむ)さんは「チクロは、砂糖に比べ経済性に優れ、加工しやすいなどの利点から、粉末ジュースや菓子、果物の缶詰などさまざまな食品に使われていた。チクロを使ったジュースやお菓子は、後味がすっきりしていてくせのない自然な甘さで、私には砂糖よりもおいしく感じられた」と話す。

対応分かれる

 しかし米国で1968年、発がん性の疑いが指摘され、日本でも大騒ぎになった。昭和44年、米国で使用が禁止されたのに続き、日本でも添加物の指定が取り消され、使用禁止になった。

 以来、日米では禁止のままだが、内閣府食品安全委員会の「平成22年度食品安全確保総合調査報告書」によると、欧州連合(EU)や中国、今回チクロが検出された調味料を生産するタイなどでは使用が認められている。

 添加物の安全性などを国際的に評価する「JECFA(WHO/FAO合同食品添加物専門家会議)」は1982年、チクロのADI(許容一日摂取量=毎日一生涯食べても健康に悪影響を及ぼさないと推定される1日当たりの摂取量)を体重1キログラム当たり11ミリグラムとし、この基準を超えない量なら使っても問題ないとした。

 例えば子供(体重16・5キログラム)のADIは181・5ミリグラム。今回チクロが検出された調味料を大さじ1(約15グラム)使った料理なら1皿でチクロ0・3ミリグラムの摂取となるので、1日に605食以上食べなければ健康に影響が出る量にはならない。

国が検討を

 日本でチクロの使用が依然禁止されているのは、企業から使用の申請がなく、安全性の再評価がされないことも理由の一つだ。砂糖が貴重品ではないうえに、人工甘味料の種類も豊富になり、もはやあえてチクロを使う必要はないのかもしれない。

 しかし、日本と海外の対応が分かれたままだと、チクロが入った輸入食品が見つかるたびに、回収・廃棄されることになる。

 添加物に詳しい鈴鹿医療科学大学医療栄養学科の長村洋一教授(臨床生化学)は「世界的に食品ロスへの対応が求められている。国際的に使われている添加物については、国が使用に関する検討をするべきではないか」と話している。

(文化部 平沢裕子)

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